【遺言とは】
遺言とは、自分が築き上げてきた財産や、先祖代々の御土地などの財産を有効に活用してもらうために行う遺言者の意思表示です。
例えば遺言者が仮に100,000円でも財産として残していたとしても、遺言がないために今まで仲の良かったご兄弟やご親族の骨肉の争いになるケースもあります。
特に私たちの場合は、職業柄、さまざまな相続によるトラブルに遭遇してきました。
もちろん遺言者になり得る方には非常にお伝えしずらいこともありますが、勇気を持って「遺言書の作成をした方が良いのでは…」とご提案をさせていただいて、いざ相続が発生した際に未然に相続による親族間のトラブルを防ぐことができ、遺言者の方の御霊を無事にお見送りさせていただくことができたことが多々あります。もちろん相続人の方にはご不満に思う方もいらっしゃいますが、遺言者の方のご意思ですので、ご親族間の最悪の事態を回避することができたことが多々ございます。
まだまだ元気だと思っている方でも、万が一のために備え、遺言書を作成しておくことをオススメいたします。
遺言は、悲劇を防止し、相続を巡る争いを防止しようとすることに主たる目的があります。
【遺言がないときはどうなるのか】
遺言のないときは,法定相続といって、民法によって相続人の相続分を定めています。
例えば民法では「子及び配偶者が相続人であるときは、配偶者に2分の1で残りの分を子の相続分になる」というように「抽象的に相続分の割合を定めているだけ」なので(民法900条参照)、遺産の帰属を具体的に決めるためには、相続人全員で遺産分割の協議をして決める必要があります。
しかし、誰でも財産が何もしないで手に入るとなると協議がまとまらないことがほとんどで、協議がまとまらない場合には、家庭裁判所で調停又は審判で解決してもらうことになりますが、親族間の争いが複雑なものになり、解決が難しくなることが非常に多いです。
例えば遺言で、妻には○○○県○○市○○町△-△-△の自宅と○○○万円,長男には○○○県○○市○○町△-△-△の土地と○○○万円,二男には○○○県○○市○○町△-△-△にある○○マンション○○号室のマンションと○○○万円,長女には貴金属類すべてと○○○万円といったように具体的に決めておけば、遺言者のご意思ですのでご親族間の骨肉の争いを未然に防ぐことができるわけです。
法定相続に関する規定は,比較的一般的な家族関係を想定して設けられているので、さまざまな家庭環境を考えると、相続人との間で不平等なことが起きてしまうことも少なくはありません。
例えば、法定相続では,子は等しく平等の相続分を持っていますが,子供の頃から遺言者を一生懸命助けて、苦難を共にしてきた子と、そうではなく、遺言者とはあまり関係を持たなく自由きままに生きてきた人と、それなりの差を設けてあげないと不公平ということもあります。
遺言者は、自分のおかれた家族関係をよく考えて、相続人に相応な相続の仕方を遺言できちんと決めておくことは、あとに残された方たちにとっては非常に大切なことなのです。
【遺言の必要性が特に強い場合はどのような場合か】
一般的に言えば、財産があれば、ほとんどの場合において、遺言者がご自身のおかれた家族関係や状況をよく考え、それにふさわしい形で財産を相続させるように遺言をしておくことが、遺言者にとりましても、あとに残されたご家族の方たちにとっても良いと思います。
しかし、下記1または7のような場合には遺言をしておく必要性が特に必要だと考えられます。
1)夫婦の間に子供がいない場合
夫婦の間に子供がいない場合には、法定相続になると、夫の財産は妻が4分の3、夫の兄弟が4分の1の割合で相続することになります。しかし、もちろん長年自分を支えてくれた妻に財産を全部相続させたいと思う方も多いと思います。そのためには、遺言をしておくことが絶対必要です。兄弟には遺留分がないので、遺言さえしておけば、すべての財産を妻に相続させることができます。
2)再婚をして前妻の子と後妻がいる場合
前妻の子と後妻との間では、遺産相続の争いが起こる確率も非常に高いので、遺言できちんと相続分を定めておく必要性が非常に高い場合が多いです。
3)長男の嫁に財産を相続させてあげたい場合
長男が死くなった後、その妻が亡夫の親の世話をしているような場合もよくある話しです。遺言者がその嫁にも財産を残してあげたいと思うことが多いと思いますが、その嫁は相続人ではないので、遺言でその嫁にも財産を遺贈する旨を定めておかないと、そのお嫁さんは何ももらえないことになってしまいます。
4)内縁の妻の場合
長年表向きは夫婦として連れ添ってきても、婚姻届けを出していない場合(いわゆる内縁の夫婦)は、妻には相続権がありません。内縁の妻に財産を残してあげたい場合には、必ず遺言を残しておく必要があります。
5)個人で事業を経営したり、農業をしている場合などは、その事業等の財産を何人もの相続人に分割してしまうと、上記事業の継続が困難になることと思われます。このような事態を避け、家業等を特定の者に承継させたい場合には、その旨をきちんと遺言しておかなければなりません。
6)上記の各場合のほか、各相続人ごとに承継させたい財産を指定したい場合など(例えば,不動産はお金と違い、実際は相続人みんなで分けることが難しい場合が多いでしょうから、それを誰に相続させるかを遺言で決めておいたほうが良いでしょう。)、また身体に障害のある子に多くあげたいとか、遺言者が特にお世話になっている子に多く相続させたいとか、特定の孫に遺贈したいとかのように、遺言者のそれぞれの家族関係に応じて、遺言をしておく必要があります。
7)相続人がまったくいない場合
相続人がまったくいない場合には、特別な事情がない限りは、遺産は国庫に帰属します。このような場合には、特別お世話になった人に遺贈したいとか、世の中の役に立つような団体や研究機関などに寄付したいなどと思われる場合には、その旨の遺言をしておく必要があります。
【遺言はどのように手続きするのか】
遺言には厳格な方式が定められています。その方式に従わない遺言はすべて無効です。「あの人は、生前こう言っていた。」などと言ってもどうにもなりません。録音テープやビデオにとっておいてもそれは遺言としては、法律上の効力がありません。遺言の方式には,自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言という3つの方式が定められています。
【自筆証書遺言とは】
自筆証書遺言は、遺言者が、紙に、自ら、遺言の内容の全文を書き、さらに、日付、氏名、生年月日を書いて署名し、押印して作成する遺言です(すべてを自書しないとだめで、パソコンなどで作成しているものは無効です。)。自筆証書遺言は、自分で書けばよく、費用もかからず、いつでも書けるというメリットがあります。
しかしデメリットとしては,内容が具体的ではない場合には、法律的に見て不備な内容になる危険性があり、良かれと思って書いた遺言書が逆に紛争のもとになってしまったり、無効になってしまう場合もあります。さらに、誤って記載をしてしまい、訂正をした場合には訂正した箇所に押印をし、さらにどこをどのように訂正したかということを具体的に付記して、そこにも署名しなければならないなど方式が厳しいので、遺言書自体が無効になってしまう危険も高いです。
また、自筆証書遺言は、その遺言書を発見した者が、必ず家庭裁判所にこれを持参し、相続人全員に呼出状を発送した上で、その遺言書を検認するための検認手続を経なければなりません。さらに、自筆証書遺言は、これを発見した者が、自分に不利なことが書いてあると思ったときなどには破棄したり、隠したり、内容を改ざんをしたりしてしまう危険性がないとはいえません。
自筆証書遺言は全文自書しないといけないので、病気等で手が不自由になり字が書けなくなった方は利用することができません。
【公正証書遺言とは】
公正証書遺言は、遺言者が、公証役場の公証人の目の前で、遺言の内容を口授し、それに基づいて、公証人が、遺言者の内容を正確に文章にまとめて公正証書遺言として作成するものです。
遺言者が遺言をする際には、公証人が親身になって相談を受けながら必要な助言をしたりして、遺言者にとっては安心して遺言書を作成していくことができます。
公証人は、長年裁判官や検察官等の法律実務に携わってきた法律の専門家で、しっかりとした法律知識と経験を持たれております。そのため、複雑な内容であっても,法律的にきちんと整理した内容の遺言にもなりますし、何よりも遺言書の内容の不備で遺言が無効になるおそれも全くありません。公正証書遺言は、自筆証書遺言と比べて、非常に利用者も多く、安全で確実な遺言方法かと思います。
また、公正証書遺言は、家庭裁判所で検認の手続を経る必要がないので、相続開始後、速やかに遺言の内容を実現することができます。さらに原本が必ず公証役場に保管されるので、遺言書が破棄されたり、隠匿されたり、内容の改ざんをされたりする心配も全くありません。
さらに自筆証書遺言は、全文を自分で自書しなければいけないので、病気等のため自書が困難な場合には、自筆証書遺言をすることはできませんが、公証人に依頼すれば、このような場合でも遺言をすることができます。署名することもできなくなった場合でも公証人が遺言者の署名を代書できることが法律で認められています。
ちなみに遺言者がさまざまなご事情で公証役場に出向くことが困難な場合には、公証人が遺言者の自宅又は病院等へ出張して遺言書を作成することもできます。
なお、公正証書遺言を作成するためには、遺言者と利害関係のない証人2人の立会いが義務づけられていますが、証人が見つからない場合には、公証役場で紹介してもらうことができます。
【公正証書遺言でも秘密は守られるのか】
公正証書遺言は確実に秘密を守ることができる遺言です。
公正証書遺言は、公証人と遺言者に加えて証人2人の立ち会いの下に作成されます。公証人には法律上の守秘義務が課されていますし、公証人を補助する書記も職務上知り得た秘密を他に漏らさないことを宣誓して採用されているので、公証人の側から秘密が漏れる心配はありません。
また、証人も民法上の秘密保持義務を負うことは明らかといえます。
このように、公証人は、公正証書作成の席上、証人らに立会いの意味や秘密保持義務についての説明をするよう心がけていますので、公証人の側や証人から公正証書遺言を作成したことや遺言の内容が漏れる心配はありません。
さらに、公正証書遺言の原本は役場に厳重に保管され、遺言者が亡くなるまで他人の目に触れることは絶対にありません。実際に、公正証書遺言に関する情報漏れにより問題が起きたことも聞きません。
なお、さまざまな事情により(天災等)原本や正本・謄本が滅失しても復元ができるようにする原本の二重保存システムも構築され、保管の点からも安心です。
【秘密証書遺言とは】
秘密証書遺言は、遺言者が、遺言の内容を記載した書面(自筆証書遺言とは異なり、自書である必要はないので、パソコン等を用いても第三者が筆記したものでも構いません。)に署名押印をした上で、これを封じ、遺言書に押印した印章と同じ印章で封印した上、公証人及び証人2人の前にその封書を提出して自分の遺言書である旨及びその筆者の氏名及び住所生年月日を申述し、公証人がその封紙上に日付及び遺言者の申述を記載した後、遺言者及び証人2人と共にその封紙に署名押印することにより作成されるものです。
この手続を経由することによって、その遺言書が間違いなく遺言者本人のものであることを証明でき、かつ、遺言の内容を秘密にすることができますが、公証人はその遺言書の内容を確認することはできませんので、遺言書の内容に法律的な不備があり、無効となってしまう危険性がないとはいえません。
また、秘密証書遺言は、自筆証書遺言と同じように、この遺言書を発見した者が、家庭裁判所に届け出て、検認手続を受けなければなりません。
【遺言はいつすれば良いのか】
冒頭で記載したようにほぼいつでも可能です。
ただし、遺言は判断能力があるうちは死期が近くなってもできますが、判断能力がなくなってしまうともう遺言はできません。判断能力がなくなったり、死んでしまっては、どうしようもすることができなくなってしまいます。そのために、遺言は元気なうちに備えとしてしておくべきものなのです。ちなみに、遺言は、満15歳以上になればいつでもできます。
【遺言は訂正や取消し(撤回)が自由にできるのか】
遺言は、遺言者の最終意思を保護しようという制度ですから、訂正や取消しはいつでも、また、何回でもできます。遺言は作成したときにはそれが最も良いと思って作成した場合でも、その後の家族関係の諸状況の変化に応じて、あるいは、心境が変わったり、考えが変わったりして訂正したり撤回したいと思うようになることもあると思います。また、財産の内容が大きく変わった場合にも、多くの場合は書き直した方がよいといえるでしょう。
【障害を抱えた子の将来の面倒を見ることを条件に、第三者に財産を与えるという遺言はできるのか】
親にとって障害を抱えた子の将来ほど心配なことはないでしょう。もし、誰かがその子の面倒を見てくれるという信頼できる人や、施設や機関が見つかれば、その子の面倒を見てもらう代わりに、その人や施設や機関に、財産を遺贈したいと思われるのも自然なことだと思います。民法では、このような場合のように、受遺者に一定の負担を与える遺贈のことを「負担付遺贈」として規定を置いています(民法1002条)。負担付遺贈をする場合に注意すべきことは、負担の内容を明確にすることと、その負担が遺贈の目的の価額の範囲内にあるようにすることです。このような遺言をする場合には、受遺者となるべき人又は施設や機関と事前に十分な話し合いをしておくことが重要です。遺言が効力を生じた後に受遺者が負担した義務を履行しない場合には、相続人は、相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履行がないときは、遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができることになっています(民法1027条)。
【財産を妻に相続させる遺言をしようと思いますが,妻が私より先に死亡したらどうなりますか?】
相続人や受遺者が,遺言者の死亡以前または同時に死亡した場合、遺言は失効してしまいます。そのような心配のあるときは、万が一に備えて、例えば「もし妻が遺言者の死亡以前に死亡したときは、その財産を〇〇に相続させる。」と決めておけばよいわけです。これを「予備的遺言」といいます。
【亡くなった人について遺言書が作成されているかどうかを調べることができますか】
平成元年以降に作成された公正証書遺言であれば、日本公証人連合会において、全国の公正証書遺言を作成した公証役場名、公証人名、遺言者名、作成年月日等をコンピューターで管理しているのですぐに調べることができます。
なお、秘密保持のため、相続人等利害関係人のみが公証役場の公証人を通じて照会を依頼することができることになっていますので、亡くなった方が死亡したという事実の記載があり、かつ、亡くなった方との利害関係を証明できる記載のある戸籍謄本とご自身の身分を証明するものを持参し、お近くの公証役場にご相談下さい。
【口がきけない方や,耳が聞こえない方でも,公正証書遺言をすることができるのか】
公正証書遺言は、遺言者が、「口頭で」公証人にその意思を伝えなければいけません。さらに遺言書作成後、これを「読み聞かせ」なければならないとされていました。しかし、民法の改正により平成12年1月から、口がきけない方や、耳の聞こえない方でも、公正証書遺言をすることができるようになりました。口のきけない方でも、自書のできる方であれば、公証人の面前でその趣旨を自書することにより(筆談により)、病気等で手が不自由で自書のできない方は、通訳人の通訳を通じて申述することにより、公証人にその意思を伝えれば公正証書遺言ができることになりました。例えば、もともと口のきけない方も、または、脳梗塞で倒れて口がきけなくなったりなど、病気のために口のきけない状態になっている方でも、公正証書遺言ができるようになりました。実際に公証人が病院等に赴いて、口のきけない方の遺言書を作成することも珍しくありません。
【公正証書遺言をするにはどのような資料を準備しておけばよいのか】
公正証書遺言の作成を依頼される場合には、最低限下記の資料が必要です。なお事案に応じて他にも資料が必要となる場合もありますので予めご了承ください。
① 遺言者本人の印鑑登録証明書
② 遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本
③ 財産を相続人以外の人に遺贈する場合には,その人の住民票
④ 財産の中に不動産がある場合にはその登記事項証明書(登記簿謄本)と、固定資産評価証明書又は固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書
⑤ なお、前記のように公正証書遺言をする場合には、証人二人が必要ですが、遺言者の方で証人を用意される場合には、証人予定者のお名前、住所、生年月日及び職業をメモしたものをご用意下さい。
【公正証書遺言を作成する場合の手数料はどれくらいかかるのか】
公正証書遺言の作成費用は手数料令という政令で法定されています。
1)まず遺言の目的たる財産の価額に対応する形で、その手数料が下記のとおり定められています。
(目的財産の価額) (手数料の額)
100万円まで 5000円
200万円まで 7000円
500万円まで 11000円
1000万円まで 17000円
3000万円まで 23000円
5000万円まで 29000円
1億円まで 43000円
1億円を超える部分については
1億円を超え3億円まで 5000万円毎に 1万3000円
3億円を超え10億円まで5000万円毎に 1万1000円
10億円を超える部分 5000万円毎に 8000円
がそれぞれ加算されます。
2)上記の基準を前提に、具体的に手数料を算出するには下記の点に注意が必要です。
① 財産の相続又は遺贈を受ける人ごとにその財産の価額を算出し、これを上記基準表に当てはめて、その価額に対応する手数料額を求め、これらの手数料額を合算して、当該遺言書全体の手数料を算出します。
② 遺言加算といって、全体の財産が1億円以下のときは、上記①によって算出された手数料額に、1万1000円が加算されます。
③ さらに、遺言書は、通常、原本、正本、謄本を各1部作成し、原本は法律に基づき役場で保管し、正本と謄本は遺言者に交付しますが、原本についてはその枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚(法務省令で定める横書の証書にあっては、3枚)を超えるときは、超える1枚ごとに250円の手数料が加算され、また、正本と謄本の交付にも1枚につき250円の割合の手数料が必要となります。
④ 遺言者が病気又は高齢等のために体力が弱り公証役場に赴くことができず、公証人が病院・ご自宅・老人ホーム等に赴いて公正証書を作成する場合には、上記①の手数料が50%加算されるほか、公証人の日当と、現地までの交通費がかかります。
⑤ 公正証書遺言の作成費用の概要は、ほぼ以上でご説明できたと思いますが、具体的に手数料の算定をする際には,上記以外の点が問題となる場合もありますので予めご了承ください。